今は昔 上高田編(5)
前回までは上高田の概要、また大まかな位置付けなどご紹介してきましたが、今回からは当時の行事や農作業についてご紹介を致します。大正から昭和にかけてのつい何十年前かの様子ですが、私を含め現代の方にとっては大変興味深い当時の様子を垣間見る事ができると思います。

 

【農作業】1.麦作り

■ 麦作り、麦踏み、取入棒打■

太田道灌時代(1840年代)は言うにおよばず、徳川家康が江戸入府(天正18年8月1日、1590年)した当時の上高田は、文字通り未開の山林、草地のみであった。3代将軍家光の時代も中野宝仙寺に到着、江古田東福寺が御膳所と定められ、落合、上高田、目白辺にかけ鷹狩の格好の場所であった。

以後、徳川幕府の態勢も整い江戸の拡大繁栄に従い人口も増加し、江戸近在を開拓し急増する江戸の人口を養う必要上各地の近在所々が開かれ、、○○新田等といわれる土地が増していった。上高田もその一環として、元禄のやや前に主に三河あたりから集団的に強制移住させられたと考えられる。妙正寺川や桜ヶ池を水源とし米作り、一部は麦作も行い田より面積の多い畑は主に江戸へ供給する野菜畑として次第に形成された事は明らかである。

馬、鞍、千本ごき、押切
右下・右から馬、鞍、千本ごき、押切



夏野菜の終わった畑や大根あとなどの畑には麦がずいぶん作られた。また上の方の田は比較的水はけ良く、かた田が多く田麦が作られた。主に鈴木弥太郎、小池隆利、細井萬五郎、東光寺等の田は麦作に適してよい上田だった。下手に下るにつれ、特に旧ファイバー工場(現都営住宅)の下の方は深田で水はけが悪く、米と麦の二毛作は出来なかった。ただ山下田圃の中で一ヶ所だけあった私の家の土地はどういうわけか田の中に約一反弱位畑が高くあり、ここにも麦が作られた。

ざる各種・臼、各種杵・万石・餅つきせいろう
左上・ざる各種 左下・臼、各種杵 右上・万石 右下・餅つきせいろう



10月下旬から11月の上旬には、あちこちでダラ肥を肥料に麦蒔き風景が展開される。12月の上旬頃から芽を出している柔らかい芽に中耕い土寄せをし、下旬になると徒長して寒中霜で株が浮き上がり、枯死しないように麦踏風景があちこちで両手を腰の後ろにまわした前かがみの姿が見られる。さらに土入れといって先端に一寸幅のやや薄い鉄板、その後の部分は金網、三方に浅い枠と後部に長い柄のついた土入れ道具で麦の上から細かく柔らかい土を入れて根をしっかりさせる。


木鉢、篩、一斗枡、・粉篩・のし板、・焙烙
左上・木鉢、篩、一斗枡、 左下・粉篩 右上・のし板、右下・焙烙


2月3月と麦踏、追肥、土入、中耕、土寄せ等々何回も手をかけた努力でしっかり育った株は立派な緑の麦畑となる。小麦の葉は緑が濃く、大麦は緑、ビール麦はややうすくノゲも小麦、ビール麦、大麦の順に長いので、遠くからでも一目で判った。

麦株には良く雲雀が巣を作る。青空高く飛び上がり、一日中囀る初夏の風物は全くのどかそのものである。飛び上がったり下がったりする時は、決して自分の巣から直接出入りしない。

食膳かご
食膳かご

外敵に判らぬように巣から直接出入りしない。外敵に判らぬように巣からかなり離れた所から上り下りする。

こんな習性のあることは都会人には知る人も少なく、実際この鳥のこのような習性を見る機会もないだろう。

入梅前になると所詮麦秋で、一面に実った黄褐色の麦の穂の色彩の波が、微風にそよぐ。

 

梅雨に入らぬ前、または長梅雨で実から芽が出たりしないうちに麦刈り風景があちこちで始まる。良く研いだ鎌で、しっかり成長した株をザックリザックリ音をさせながら刈り取るのは気持ちよいものである。時によると株の中から雲雀の巣があり、まだ雛が居る事が有る。

刈り取った株は株間に置くと、まるき手が一かかえも有る大束にゆわえる。これを両端を尖らした丸太の両方に差し込んでかつぎ出し、道傍の車に山と積む。山下の坂や氷川様の坂を押し上げるには、一苦労も二苦労もしたものである。物置のまわり、軒の張出下までいっぱいになり株の上にさらに株を積み上げた後は麦こきを待つばかりとなる。

台秤
台秤



次回は「麦こき」「棒打ち・麦打ち」です。お楽しみに。

●ふる里案内人●
花岡哲也 (株)花岡製本所(製本一級技能士) 
小学校4年生から上高田の住人となり、現在は新井に在住。偶然にもある一冊の本を開いた時、小学校時代の友人、鈴木さん宅に何度かお邪魔し、遊んだ事が思い出されてきました。もう40年も前の事です。鈴木宅は昔からの上高田の面影を今も残し、時代の流れを気にせずに悠々と時を過ごしています。製本職人の性でしょうか、この時代の流れを記した素晴らしい本から上高田や近隣、中野区の昔を代弁したくなりました。



今は昔 上高田編(1)
今は昔 上高田編(2)
今は昔 上高田編(3)
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